「ん・・・・・・」


あぁ、よく寝ていた気がする。

さっきは変な夢を見た。

変な声が頭の中で聞こえて、突然現れた穴におちて・・・・。


まぁ、たまにはあんな夢もあるかもねー・・・。

さっさと部屋に戻ってまたお茶を・・・。


ゆっくりと、アイリークは起き上がる。

―あれ?何かいつもの景色と違うわ。

中庭の景色でも、自分の部屋の景色でもない。


「え・・・・?」


目の前に広がるのは違う風景。

―大きなお屋敷、お城、街・・・見た事のない、景色ばかりであった。

「ここ、どこ・・・?」

アイリークは唯唖然と空を、景色を、目の前に広がる世界を見つめた。

目の前に広がる景色は、アイリークが知らないものだった。


「やっと、お目覚めですね!アイリっ!!」


高い、甘いかんじの声がした。

―あれ、この声さっき聞いたような・・・・。


「あぁ!!その声っ!さっきの、頭の中で聞こえた・・・!」

「あ、ちゃんと憶えてくれたんですね!」


語尾にはぁと、とつきそうな声で、声の主は喜んだ。

声の主は―男? しかも、白くてフワフワしたもの―ウサギの耳を頭につけてる。


「ちょっと、ココどこですか!?貴方何者なんですか!?」

ものすごい勢いで噛み付くと、ウサギ男は困った様な顔した。


「どこって、ここは『創りの国』ですよ、アイリ」


―創りの国? 創りの国って何なの?

アイリークの心を見透かした様に、ウサギは笑った。


「創りの国は・・・その名の通り、全てが創られた・・・虚構の国ですよ」

しかしその笑みは・・・ゾクっとするような、冷たい笑みだった。

そしてウサギは続ける。


「貴女は選ばれたんです、アイリーク」


-選ばれた?

    何に?

 誰に?

 

       ―何の為に?

 

「・・・どう、して・・・?私が・・・?」

やっとの思いで搾り出した声は、掠れて、自分が怯えている事がわかる。


―何かに選ばれるなら、もっと適した人がいる。

私みたいな

出来損ないじゃない

偽者じゃない

呪われていない


別の人が・・・


「其れは貴女が“アリス”だから」

ウサギは空を見上げ、語り始めた。

「そう、アリス。
 全てを支配し、全てを統治する者。
 虚構を真実にしてくれる。
               
              ―我らの救世主」
 

―“アリス”が救世主?

 私がそのアリス?
 
 意味が判らない。

 どうして私なんかがそんなのに。

 誰一人救えない私が、そんなの。


               ありえない。


「そんなの、私は知りません。私を帰して下さい」

「それは駄目です。貴女にはアリスになってもらわなくてはなりません」

ウサギの答えは即答だった。


「この国には・・・貴女が必要なんです」

「嘘よ。私は誰にも必要となんかされていない。いいから帰して下さい」

帰りたい、ただその想いだけが頭を埋め尽くす。


「うーん・・・これじゃあ埒があきませんねぇ・・・“僕達”も引き下れないんですよ」

ウサギも引く気はいっさいない様だ。

どうしてそんなに自分を必要としているのか、アイリークには到底理解出来なかった。